「宝くじで一攫千金!」という夢を見て、宝くじを購入する人は少なくありません。実際には、宝くじで高額当せんをする確率は極めて低いにもかかわらず、なぜこれほど多くの人が宝くじを買うのでしょうか?行動経済学の視点からその理由を探ってみましょう。
人は確率を機械的に評価しない
まず、確率の数字そのものが私たちの行動にどう影響を与えるのかを考えてみます。人間は、数字や確率を単純に機械的に判断するのではなく、感情や心理的な要因が大きく影響します。
行動経済学では、同じ金額や確率でも、その状況によって私たちの行動が大きく異なることが明らかになっています。例えば、同じ確率で得をする場合と損をする場合、私たちは損失を避けようとする行動を取りやすいという「損失回避」という現象が知られています。
宝くじの場合、200〜300円程度の低価格で購入でき、最悪でも「お金が戻ってこないだけ」という結果です。一方で、高額当せんする可能性があるという「夢」は非常に魅力的です。このように、最高の結果(数億円の大当たり)が極端に魅力的である一方、最悪の結果(購入した額が無駄になるだけ)は大した損失と感じないため、人々は宝くじを買いやすくなるのです。
期待値よりも「夢」を追う心理
宝くじを冷静に考えると、その期待値は非常に低いです。つまり、統計的には宝くじを買い続けてもトータルでは損をする可能性が高いのです。しかし、多くの人はその事実に気づいていながらも、「もしかしたら自分が当たるかもしれない」という希望を持ち続けます。
この心理は、「可能性の誤評価」という現象です。人は、極めて低い確率であっても、その確率が0でない限り、そのチャンスを過大評価しやすい傾向にあります。宝くじの場合、当せん確率がいくら低くても「ゼロではない」という事実が、購入意欲を刺激するのです。
また、宝くじの当せん者がニュースで取り上げられたり、当せんの喜びを語る広告が頻繁に目に入ることで、自分にも当たる可能性があると錯覚することも少なくありません。これも、確率を誤って評価する原因の一つです。
損失回避の原則が働かない仕組み
行動経済学でよく知られている「損失回避」の原則では、私たちは得をするよりも、損を避けるために行動する傾向が強いとされています。例えば、1万円を得るチャンスがある場合と、1万円を失う可能性がある場合では、多くの人は後者の「損失」を避けたいという強い感情に駆られるのです。
しかし、宝くじに関しては、この損失回避の原則がうまく機能しません。なぜなら、宝くじの単価が低いため、外れても「大きな損失」とは感じにくいからです。200円や300円という金額は、仮に外れたとしても日常生活にほとんど影響を与えません。そのため「外れたら損をするから買わない」という考え方は、あまり強く働きません。
これに対して、「もし当たったら一生遊んで暮らせるかもしれない」という大きな報酬への期待は、宝くじを買う動機として強く働きます。最悪でも失うものは小さいため、ついつい「夢を買う」ことに惹かれるのです。
逆の状況を想像してみると?
もし宝くじが、逆に「●●分の1の確率で数億円を支払う」ものだったとしたら、どうでしょうか?つまり、当せん者が数億円を受け取る代わりに、外れた人が大きな負担を強いられるような仕組みだとしたら?
たとえ当せん確率が10倍に上がり、期待値がプラスになるとしても、多くの人はこの宝くじを買わなくなるでしょう。損失回避の心理が強く働き、「大きなリスクを負う」という恐怖が前面に出てくるからです。
このような状況であれば、期待値がいくら高くても人々は宝くじを避けるでしょう。つまり、宝くじが現在のように多くの人に購入される背景には、「リスクが小さい」という点も大きく関わっているのです。
結論
宝くじがこれほど多くの人々に購入される理由は、冷静な期待値の計算ではなく、心理的な要因が大きく関わっています。低価格で購入でき、最悪の場合のリスクがほとんどなく、それに対して非常に大きなリターンの可能性があるという「低リスク・高リターン」の幻想が、多くの人を惹きつけます。
この現象は、行動経済学の視点から見ると非常に興味深いものであり、人間の感情や心理がどれだけ意思決定に影響を与えるかを物語っています。たとえ確率的には非常に低くても、夢を見たいという気持ちが、宝くじを買うという行動を支えているのです。
宝くじを買うことは、単なる「お金をかける」という行動以上に、日常にちょっとしたスリルや夢を与えてくれるものでもあるのかもしれません。それが、多くの人が宝くじを買い続ける理由の一つなのです。
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